例会「社員と共につくるビジョン」
2022.01.26
報告者:株式会社RELIEF 代表取締役 落合裕樹氏
父親の会社が倒産。実家を失い、企業を決意
僕の父親が経営していた土木会社が倒産し、実家を失いました。僕は当時29歳。18歳から足場屋に勤めていた僕にとって、足場仮設会社を立ち上げることが唯一の選択肢でした。足場仮設会社として株式会社RELIEFを設立することになりました。
顧客ゼロから会社経営をスタート。同業者から職人を引き抜くが嫌だったという理由から素人を育て、ベテランの職人は自分だけでした。
RELIEFの二大事件
会社を経営するなか、大きなトラブルもありました。弊社の二大事件と呼んでいる事例をご紹介します。
「材料がなくて足場が組めない!」
創業当時はまだ十分な足場の材料がなく、リースを併用していましたが、弊社が使う予定だった材料をリース会社が他社に貸してしまったということがありました。必要な材料がないため、足場が組めなくなり、元請会社に謝罪しなければならなかった。資材をストックし、余分に置いておかないといけないと学ばされました。
「ウチの足場が勝手にバラされた!」
もうひとつは、現場の足場を勝手にバラされてしまったという事件です。通常は入金確認後に足場をバラしますが、元請から入金確認ができなかったため、バラさずそのままになっている現場がありました。すると、元請会社が弊社の足場を無断で解体してしまい、さらには材料を隠されてしまった。元請会社と話し合いの末、無事返してもらうことができました。
足場仮設から多角事業展開へ
弊社では足場事業の他にも複数の事業部があります。
足場事業部
足場事業部では住宅から10階ほどの建物までの足場を仮設しています。現在課題としていることをお話しします。
・課題①組織づくり
立ち上げ当時はお客様0からのスタートだったことが悩みでしたが、現在は従業員が集まってこないことが悩みに変わってきました。
・課題②過積載問題
もともとAタイプを使っていましたが、東京ビケの軽量材に入れ替えました。約2億円の材料を購入するために事業計画や売り上げといったデータを提出しなければならず、融資を受けるまで1年半もかかりました。
・課題③工程管理
現在ホワイトボードを用いて工程管理をしていますが、今後はスマートフォンやアプリなどを導入する方向で調整中です。
・課題④社員教育
社員教育に関しても課題があります。
紬ホーム
地域密着型で足場工事から自社施工一貫体制の内外装リフォーム事業です。
リフォーム事業を立ち上げた経緯は、足場業界の価格崩壊です。この危機を乗り越えるためには自社が元請になるようにシフトチェンジが必要だと考えています。
また、無料ドローン点検を導入し、屋根点検と施工後確認に利用しています。無料にする理由はお客様の家屋のデータを写真や動画で3年ごとに記録し、管理するためです。他のリフォーム会社からの営業が来ても、これらのデータがあることで競合との差をつけることができます。
苦労したこともありました。リフォームに関する知識がなかったため、勉強しなければならなかったことと、事業部を任せられる人材探しに苦戦したことです。
・販促活動
以前は営業による訪問販売をしていましたが、ここ数年はコロナの影響でインターフォン越しに拒絶されてしまいますから、反響営業へとシフトしました。チラシやホームページの整備をし、月一度、地元で2万部のチラシ投函を実施。反響は月に4〜5件です。お問い合わせは、主に屋根塗装、キッチンの交換、トイレの交換などがあります。
ソーシャルメディア事業部
SNS配信(Instagram・Facebook)を運営する広報部門です。文字情報だけでは伝わらない情報も発信でき、ブランディング力の向上やフレキシブルな対応を求められる現代に適したツールです。検索からSNSへと言われる現代において、これらのツールは今後企業に必須だと考えています。
現在は自社で手一杯ではありますが、他社のSNS代行業務の話もいただくこともあり、部門を法人化することも視野に入れています。
主な仕事内容
・SNSの発信(Instagram・Facebook)
・YouTube(撮影・編集)
・公式LINE(タイムライン投稿)
・求人関係(募集文章・動画作成・面接
・ホームページ(ブログ・施工事例の投稿)
・ホームページとYouTubeの分析
事業部のメリット
・求人関係
求人の問い合わせは、まずこの部署が担当します。これまではエントリーがあっても面接にこないということがよくあったので、面接当日まではLINEなどでコミュニケーションを取り、きちんと面接に来てもらうように工夫しています。
YouTubeは現在チャンネル登録者が1000人を突破。遠方の若い職人にもリーチできるようになり配信を見て足場職人から80名の問い合わせがありました。
営業職もソーシャルメディア事業部による情報配信を見て、「他社がやっていないことに着手している企業」として注目してくれるようになり、足場工事会社から引っ張りだこのベテランの営業マンも入社を決めてくれました。
託児事業部「めばえひろば」
東京都立川市で夜間型の保育園を運営し、「子ども達が安心して過ごせる」をモットーによる働くママさんパパさんを徹底応援しています。この事業部を立ち上げたのは、潰れてしまった託児所の園長先生との出会いでした。経理部長を引き連れお話を伺うと、ビジネスとしても興味深く感じ、立ち上げることを決意しました。しかし、夜間型の託児所ということは、様々な人の出入りが懸念され、物件探しが難航しましたが、無事住民がいないビルと契約でき、今年7月21日にオープンさせることができました。
最初にスタッフ採用、次に園児の募集に着手しましたが、ここでもソーシャルメディア事業部が活躍し、チラシ制作や園の紹介動画、ホームページ、インスタグラムを手掛けました。現在8名スタッフがおり、うち4名は保育士の資格保持者で、看護師も常駐させています。インスタグラムなどの情報発信は園長先生にレクチャし、園から毎日更新してもらっています。
建設事業部
「本当にこの人と仕事したい」 僕がそう直感した人物について触れたいと思います。熊沢さんは建設業回の大手メーカーから引っ張りだこで、全国トップ10に入る売り上げを作る人でした。「お誘いするのは自由だし、タダだから……」という気持ちでお声がけしました。最初は相手にされませんでしたが、一年間、自分の気持ちをぶつけまくりました。ある日、電話がかかってきて「俺、いくら?」って言ってくれました。「本気で熱意をぶつけると、こんな小さな会社でもこれほど優秀な方が来てくれる!」本当に嬉しかったですよ。
2020年2月、店舗を構えるために二人三脚で奮闘し、同年4月、文京区で店舗契約しました。ついに、店舗の引き渡し当日。「鍵をもらってきます!」と元気よく出ていった熊沢室長は、その夜、突然亡くなってしまいました。前日まで一週間、二週間と、ずっと僕と打ち合わせしていて、元気だったのに……。会社をやっているといろんなことがあるのだと、つくづく思います。それから、毎月29日は月命日として熊沢室長の墓前で「会社を大きくします」と言いに行っています。
その後、紬ホームの管理職の応募をしたときには、熊沢室長の直属の部下だった人が応募してきてくれました。ツテではなく、通常の求人と同様に、エントリーしてきてくれたのです。
彼は今も部長として活躍してくれています。
ワタナベ・テクニカル株式会社
塗装、防水、リフォーム工事、建築工事のワタナベ・テクニカル株式会社は株式会社RELIEFとは別会社です。
僕とこの会社とのご縁はとても長く、RELIEF創業当時まで遡ります。
RELIEFを立ち上げた頃、ワタナベ・テクニカルのホームページを見て、足場の案件の営業アポイントを取りました。そのときの社長(現会長)は、僕が行ったその日に仕事をくれました。顧客0からのスタートだったので、とても嬉しかったです。それ以来、ずっと仕事をもらっていて、都内に仕事で来る度に練馬にある会社に顔を出しに行っていました。そんなある日、会長が「会社を畳もうかと考えている」と言い、暗い顔をしていらっしゃった。同時期、僕は紬ホームを立ち上げ、リフォームの案件獲得に必死でした。長い歴史があるワタナベ・テクニカルは仕事が来ても断っている状態。そういった経緯で、最初はワタナベ・テクニカルの案件を紬ホームで請負いはじめました。すると会長が「ワタナベ・テクニカルを紬ホームに合併してくれないか」とおっしゃった。冗談かと思っていたのですが、会長の奥様も出てきてくださり、そうして欲しいと。しかし、僕にとっては仕事がないときに助けてくれ、僕の結婚式では会長にスピーチをいただくほどの恩人です。「合併するのではなく、僕がこの会社に入り、会社を大きくしたい」そう申し出ました。そうして、3代目代表取締役に就任したのが2021年9月のことです。
現在、ワタナベ・テクニカルは会長、事務員さん、営業部長と僕の4名で運営していますが、新規と既存客からの仕事が順調に取れています。
労働環境〜社員への思い〜
これまで、足場業界の労働環境はこのような問題がありました。
・仕事を早く終えても帰れない
・社長が怖い
・給料も安い
・楽しくない……
僕はRELIEFをこのような会社にしたくない!という思いから
「各々の自立性、自主性を大事にすること」を大切にし、勤めてくれる社員が楽しいと思える環境づくりを意識しています。
僕は社員に対して怒ることはほとんどしません。事務所に戻った従業員とはコミュニケーションは取るけれど、「出過ぎてもダメ・出なさすぎてもダメ」その一線を自分の中で決めています。僕から常に伝えるのは、感謝の気持ちと会社の方向性です。声を荒げて怒鳴るようなことは絶対にしません。
「スタッフが伸び伸びとできる環境へ」
仕事が終われば早く帰りたいと思うはずなのですが、実は弊社の従業員たちは皆すぐには帰ろうとしません。職人達は朝早くから仕事を始め、昼ご飯もあんまり食べずに会社に戻り、それからご飯を食べる人が多いです。朝も早かっただろうし、さっさと帰りたいだろうな……と思って見ているのですが、5時、6時には仕事を終えて、それからヤードへ行ってサッカーしていたり、ベトナム人の実習生も混じって野球していたり騎馬戦をやっていたり……。
「どうして皆帰らないのかなぁ」そう考えると、自然と良い輪が生みだされているからだと感じています。新しい人がその輪の中に入り、定着率も上がっていく。中には、早く帰りたいと思う子もいますが、そういう人は自然に輪から外れていきます。いい仲間だけが定着する。これを「RELIEFの輪」と呼んでいます。
落合流 社員との関わり方
僕は勤めてくれる人たちのことを、社員以前に「仲間」だと思っています。だから、仕事の話は2割くらい。プライベートの話が8割です。ただ、距離を置くのではなく、コミュニケーションはきちんと取ります。職人たちと一緒に筋トレしたりもします。仕事のことは、度が過ぎなければ怒らないと決め、従業員の意見や考えを尊重します。困りごとがあれば、仕事でもプライベートでも相談できる信頼関係を築くことにつながります。RELIEFの特徴として、レクリエーションが盛んなことがひとつあります。誕生日の職人さんがいれば、事務所に帰ってきたときにサプライズでクラッカーを鳴らしてお祝いしたりします。それをソーシャルメディア事業部が撮影して情報発信して、和気藹々とした会社の雰囲気も外に伝えることができます。
RELIEFホールディングスカンパニーを目指して
RELIEFとは
経営理念 Enjoy
ビジョン 社員やお客様の未来を創るグループカンパニーとなる
ミッション(使命) 社員やお客様の未来を創り、社会貢献をする
僕がグループカンパニーを目指す理由は、従業員さんという仲間と生涯一緒にいたいからです。そのために、人生の選択肢を与えることができる企業になる。仲間の挑戦したいことを応援できる企業になる。足場屋がまだ挑戦していないことをどんどんやって、社員さんたちにサプライズをプレゼントしたい。
だから、僕の仕事は走り続けることだと考えています。
質疑応答
報告者・落合氏の発表後、グループ毎に質疑
<質問①従業員に対する接し方についてお聞きしたい>
・プライベート8割、仕事2割とおっしゃったが、それは内容であるか、時間であるか。
・社員に対して意識しているご自身のルールは?
・社員がブレるときの軸の戻し方は?
<回答>
「社員と接するためのキーマンは経営部長(落合氏の母)です。経理部長は職人を叱ることも喧嘩することもあり、いつも事務所にいて社長に言いづらい声を拾ってもらいます。「あの子は○○の件で不安(悩み)があるようだ」といったことがあれば共有してもらい、後日僕が社員を食事に誘ったりしてコミュニケーションを取ることはあります。ただし、私からその話題(経理部長から共有されたこと)に直接触れることはありません。また、会社で他の事業(保育園等)をやっていることは、ほとんど(足場の)従業員には話しません。クリスマスなどの行事があるときには、職人さんにバイト代払って保育園にサンタクロース役をやってもらったりはしています。事務所にいるときに職人と会話はしますけれど、常にコミュニケーションを取るといったことは一切していません。僕からご飯やお酒もほとんど誘うことはありません。職人の方から誘われたら行くようにはしています。社員がブレるときの対処としては、月一度の会議で、ビジョンの共有をしています」―落合氏
<質問②多角経営のビジョンは社長一人で決めていますか?>
<回答>
「どのような事をするかは、自分一人で決めていますが、そのときに相談するのは経営部長で、予算の管理をきっちりやってもらいながら進めています。経営部長が手綱を握ってくれるような形で、売り上げなどの分析をしながら計画的に進めています」―落合氏
<質問③現場における課題はありますか?>
<回答>
「トラックの運転免許の問題があります。3トンなどの中型トラックが乗れない若い子が多いことが課題です」―落合氏
<質問④施工品質についてお聞きしたい>
<回答>
「月一回、主任が安全パトロールを実施しています。基準は点数制度を設け、会社全体で品質保持をするよう努めています」―落合氏
<質問⑤給与体系はどのようにされていますか?>
<回答>
「社員として働くか、請負制度にするか、どちらかを選択できるようにしており、職人に任せています。また、評価基準として、品質や現場でのコミュニケーション能力等を主任に評価させています」―落合氏
<質問⑤業務時間が終わってもスタッフ帰らないのは創業当時からですか?>
<回答>
「創業当時からでしたが、人が増えれば増えるほど帰らない人が多くなっています。営業や経理部長らが仕事の電話をするのに支障があるほど盛り上がってしまうこともあります(笑)」―落合氏
<質問⑥どういったタイミングで別事業を展開するのが良いでしょうか>
<回答>
「僕の会社の場合、足場の営業が仕事を取りに行くなかで、業界の常識的単価がもらえなくなってきたことがきっかけでリフォーム会社設立のタイミングとなりました。お客様に単価を上げてもらうのは難しいので、元請けにシフトするということが必要となりました」―落合氏
<質問⑦現在考えている新しい職種はありますか?>
<回答>
「2023年に計画しているのは美容業界への参入です。ネイル、エステなど女性の綺麗をトータルサポートする店舗を事業展開したいと考えています」―落合氏
<質問⑧社員教育のやり方について何か工夫していますか?>
<回答>
「月一度のミーティングで自分のビジョンを常に語るようにしています。伝えようとしてきたことは、社員のためにやりたいことであるという思いです。軽量材にシフトするのにも1年かけて何のためにそうするのか何度も話しました。その他、レクリエーションは大切にしています」―落合氏